筆跡鑑定による筆順の観察
筆順の個性は筆跡鑑定に役立つ
正しい筆順は文字を効率よく書くためにある
近年のテレビ番組では,タレントなどが漢字の筆順を答えるクイズなどがあり,筆順を間違えそうにないインテリのイメージがある人物が珍回答で笑いを誘い,または,順序を間違えがちな漢字を正答したとしてお笑い芸人が意外な一面を見せたりと,面白いながら教養も身につくという内容が好評なようです。
こうした番組では,正しい筆順が「良く」,誤った筆順は「悪い」というイメージになりがちですが,筆順とは本来,その文字を書きやすくするために編み出された筆運びの順序であり,楷書体と草書体では筆順が異なる状況を見てもそうした理由がわかります。
漢字や平仮名,片仮名,ラテン文字(アルファベット),算用数字など全ての文字に筆順がありますが,筆跡鑑定では筆順に表れる執筆者の個性を見出して鑑定に役立てています。
筆順は個性であるため,変えない方が良い
テレビ番組を見たり,他人から指摘されるなどして筆順を正すことは日常的にあります。年齢が若い就学時は特によくあり,その文字を書きやすくするための筆運びを習うことは,文字のかたちを美しくすることに繋がりますし,書きやすくなることは執筆の効率化を図ることにもなりますので良いことです。
しかし,年齢を重ね,筆跡の個性が定着した方は,筆順の矯正をしない方が良いこともあります。それは万一,筆跡を偽造されたとき,あなたを救うことがあるからです。
個性的な筆順が万一のときのあなたを救う
筆跡鑑定では,文字がどのような形であるかや,使われている文字が何かを調べるだけでなく,文字がどのように構成されているかを調べることも行います。弊所ではその中に筆順を調べる項目もあり,可能な限り筆順を再現しています。
筆跡鑑定でこれまでにあった実例では,筆順が変則的で目立つ文字が偽造に利用されることがありました。そうした文字を見て鑑定結果を出してしまうと偽造者の思うつぼですから,細心の注意が必要です。
弊所の筆跡鑑定では,鑑定を行う書類と,比較対照する書類の筆跡をすべて洗い出し,共通して書かれている文字を全て突合する方式の筆跡鑑定を採用していますので,偽造者の罠にかかる可能性を限りなく排除しています。
鑑定結果をお知らせする際,変則的な筆順があり,それが偽造を見破ることにつながったと説明すると,筆順が正しくないことを恥じる方もいらっしゃいますが,そうした方には決して筆順を矯正しないことをお勧めしています。
なぜなら,あなたを救ったのは筆跡鑑定だけでなく,あなたの個性的な筆順なのですから。
筆跡試料の作成-76回目
台風一過。皆様ご無事でいらっしゃいますか。
ここ横浜は快晴ですが,外回りは一面,塩をまいたようにべとついています。
今年も残すところ3か月。
最後までお読みいただき,ありがとうございました。