筆跡鑑定セルフチェック第7回

筆跡試料作成2019

筆跡鑑定の実務的な比較観察その3

筆跡鑑定する際のチェックポイントとして,第5回では筆跡鑑定における横画の観察を行い第6回では筆跡鑑定における縦画の観察を行ってきました。
第7回目となる今回は,偏や旁の間隔の観察についてお教えします。

筆跡鑑定の重要なポイント:気宇の観察

漢字には偏と旁で構成される文字がたくさんあり,筆跡鑑定ではそうした部分の観察も行います。弊所が所属する流派では偏と旁の間隔を「気宇(きう)」と呼んでいますので,ここでも気宇と呼びます。

漢字には,「村」字の「木」と「寸」のように左右に分かれるものや「寺」字の「土」と「寸」のように上下に分かれるものがありますので,筆跡鑑定における気宇の観察では,その間隔を観察しますが,なんとなく「離れている」とか「くっついている」というのではただの主観で「筆跡鑑定」にはなりませんから,客観的事実により明らかにします。

では,気宇の観察において,客観的事実を基に広狭の状態をどのように表現するかというと,図形の挿入を行います。

筆跡鑑定セルフチェック第7回:「村」字の観察

上図は「村」字の筆跡です。パッと見ただけで「木」と「寸」の気宇が違うことがわかりますが,それはこの筆跡を見る人の主観であり,あなたが鑑定人だったとき,これをそのまま筆跡鑑定書の解説に書くことはできません。

そこで,図形挿入を行います。

筆跡鑑定セルフチェック第7回:「村」字の気宇の観察-図形挿入

上図は「木」と「寸」の間に図形を挿入したものです。左の「村」字は「木」と「寸」の間に長方形の図形を挿入することができますが,右の「村」字では同じ大きさの図形を挿入することができません。従いまして,右の「村」字は左の「村」字より気宇が狭い。と判断することができます。

実際には,挿入した図形の大きさを明記したり,表を用いたりして客観性を補足しますが,このような図形を挿入することによりはじめて,『右の「村」字は,左の「村」字より気宇が狭い』若しくは『左の「村」字は,右の「村」字より気宇が広い』という解説を筆跡鑑定書に記述することができるのです。

気宇の観察は漢字以外でも可能

ここでは便宜上漢字を取り上げ,「偏と旁」と書きましたが,筆跡鑑定を行う上では,偏や旁として字典に記述がなくても結構ですし,もっと言えば漢字でなくても構いません。平仮名の「か」や「は」などは,文字を左右に分けることができますし,二桁以上の数字であればそれも左右に分けることができます。

自分の名前を自分で筆跡鑑定してみる

筆跡鑑定を自分でやってみよう。と思いこのブログを読んでくださっている方は,まずご自分のお名前に気宇を持つ文字があるかを思い浮かべて見てください。そして普段通りにご自身のお名前を書いてみてください。気宇の状態はどうでしょうか。

次に,ご自身の気宇の広狭とは反対になるようにお名前を書いてみましょう。普段通りに書けないと思いますが,それはあなたの筆癖が気宇の広狭を支配しているからです。

気宇の観察というと単に「偏と旁が広いか狭いか」と軽く見られがちですが,筆跡鑑定では筆癖がつきやすい箇所をつぶさに観察して客観的事実を積み上げて,鑑定結果を導き出すのです。

今回はここまでです。不定期連載ですが次回をお楽しみに。

通算104回目の筆跡試料作成

ここ横浜では曇りの日が続き,気温も上がらず暑さから遠のいた感があります。

時折日差しがあると,痛いぐらいの日射量があることに驚きます。

雲の向こうには初夏の太陽が出番を待ちわびているのでしょうね。お手柔らかに願いたいものです。


最後までお読みいただき,ありがとうございます。