偽造文書や記載事項偽装の筆跡鑑定

筆跡試料作成2021

偽造文書と記載事項偽装の解明

筆跡鑑定では職務上,偽造された文書や記載内容に手が加えられるなどの偽装が施された書類を見出すことがあります。

昨年も文書全体に加筆痕のある書類の鑑定に携わり,そのときの鑑定書には加筆痕の証拠として,通常光源のマイクロスコープ画像と赤外線光源のマイクロスコープ画像を併記して作成しましたが,相手方の鑑定人は原本で鑑定を行い,明らかに作為的な筆跡であるにもかかわらず,それを「なめらかに書かれている」とか「不審点はない」などと評しており,依頼人に都合の良いことを書こうとする盲目的な筆跡鑑定人は令和になっても存在するのかと悲しくなりました。しかし,「人のふり見て我がふり直せ。」に例外はありません。

前回のブログでもお知らせしたように弊所では赤外線撮影に特化したデジタルカメラ「PENTAX KP-IR」の機材一式を購入しましたので,鑑定業務の客観性を更に向上させるため,鑑定用資料が原本の場合は赤外線カメラによる観察を取り入れることといたしました。

領収証の記載事項偽装の例

下図は弊所で作成した領収証サンプルに通常の光源を当ててデジタルカメラで撮影した画像です。

通常光源で撮影した領収証(サンプル)

分かりやすくするために少々高めの金額にしていますが,特段不審な点はなく,筆跡鑑定の御依頼があれば肉筆文字を抜粋して対照資料と比較することになります。

シチュエーションとして,会社の経理部に飲食店で接待を行ったときの領収証が上げられたとします。その飲食店は実在しており,領収証には特に不審な点は見られないので経理担当者は領収証を通してしまい,支払いを立て替えた社員にはこの額面が手渡されることになるでしょう。しかし,何らかの理由により「この領収証は社員が書いたのではないか」という疑念がわいた場合,この領収証を提出した社員の筆跡を用意して筆跡鑑定を行うことになりますが,漢字をはじめとする主要な文字の大半が社員の筆跡と異なれば「別人の筆跡」という鑑定結果になり,第三者の筆跡の中に対象者の筆跡が隠されている状態を,筆跡鑑定で見抜くことは容易ではなく,記載事項の偽装を解明することは困難です。

赤外線撮影による画像

加筆等による記載事項の偽装を解明する場合には赤外線撮影が有効です。

赤外線光源で撮影した領収証(サンプル)

上図は前出の領収証を赤外線撮影ができるカメラで撮影した画像です。
領収証に印刷されている文字や罫線などは赤外線を透過するインクであるため写らず,右下の印影も朱肉なので消えたようになっています。金額欄を見ると「¥188,000-」と書かれていたはずが「¥33,000-」になっており,日付も「7日」ではなく「1日」になっています。

このことから領収証は「2021年4月1日」に額面「¥33,000-」で発行され,後から「2021年4月7日」に額面「¥188,000-」として加筆改ざんされたことがわかり,提出した社員への事情聴取等と併せ記載事項の偽装が解明されていきます。

本年より,弊所では赤外線カメラによる観察を取り入れて客観性を高めると共に,文書偽造や記載事項の偽装等の解明を積極的に行ってまいります。

筆跡鑑定と印章鑑定の研究用試料:158回目

新型コロナウイルスの感染者が再び増えており,重症になる人も増えています。
ここ神奈川県では1日の感染者数が999人まで増えた日があり,東京都と同じく4桁に達するのではないかと心配しています。

そんな中,成人の日を迎え横浜市では毎年恒例の横浜アリーナやパシフィコ横浜ノースでの分散型の成人式が催されています。
開催には賛否あるようですが,この一年,若い人たちも自粛と我慢の連続でしたから,感染症防止対策が徹底された環境下で参加者も意識レベルを高く保ちながらであれば,お祝いくらいしてもいいのではないでしょうか。

それにしても,自分が成人式のときに,30年後にはこんな世の中になっているとは思いもよりませんでしたね。事実は小説より奇なり。とか。


最後までお読みいただきありがとうございました。
次のブログ更新まで,あなたと私に良い風が吹きますように。