寄せ書きの筆跡鑑定
筆跡鑑定の難易度が高い「寄せ書き」
筆跡鑑定のご依頼件数が少ないものの一つに「寄せ書き」の筆跡鑑定があります。
寄せ書きは卒業式や結婚式,退職時のプレゼントなどで見かける,一枚の色紙にみんなで書き込むものですが,大勢の関係者がいる中を回しながら書き込まれる寄せ書きは,時として怪文書になることがあります。
卒業式の寄せ書きに書かれたいじめの告発
卒業式当日,担任教師に対しその組の生徒が,思い思いの一言を書いてゆくというものですが,生徒間のいじめを告発する一文が色紙の裏面に書かれていることがわかり,筆跡鑑定に及んだケースです。卒業式後の騒がしい状況において教壇に置かれた色紙に順不同で書き込まれており,そのクラスの生徒をはじめ保護者や下級生もいるため,対象者は不特定多数になります。
いじめの実態を調査する必要があり,寄せ書きの中から該当する筆跡を探すという鑑定依頼を受けましたが,寄せ書きの方に書かれた文章の文字数が少ない方や,いじめ告発文と共通した文字がない方が多く,筆跡鑑定は困難を極めました。
結婚式の寄せ書きに書かれた恨み節
結婚式の二次会で書かれた寄せ書きで,本のような表紙がついており,ご結婚されたお二人の写真が入れられるようになった豪勢なつくりのものでした。当時の状況は,披露宴より砕けた雰囲気の立食パーティー形式で,若い方が多く,お酒が入りワイワイとにぎやかな雰囲気の中で,グループごとにまとまっているため,一つのグループが書き込んだら近くのグループに寄せ書きを回すという様子だったようです。
挙式を挙げた二人が寄せ書きを見たのは二次会が終わって帰宅した翌日のこと。新婦に対するひがみや嫉み妬みなどの恨み節が書き込まれていて,それが複数人であることが内容から推察されるとのことで,思い当たる人物の過去の手紙などで筆跡鑑定を行いましたが,そうした筆跡資料の入手に時間がかかり,鑑定結果が出たのは1年以上経過してからでした。
定年退職時の寄せ書きに書かれたセクハラ告発
定年退職を迎えた方の送別会をその部署で行うことになり,退職日の一週間前に20人程度が参加する宴会が開かれました。誰が持ち込んだのか色紙が3枚も用意され,中心に「~部長へ」と書かれており,一目見て寄せ書きとわかる状態のなか一人で3枚全部に書き込んだ方もいるとのことで,宴会当時の状況が伝わるようです。宴会も佳境に入り二次会へ場所を変え,参加人数も少なくなる中で部下の一人が寄せ書きにふさわしくない書き込みがあることに気づき,そのときは色紙をまとめてしまい他の方が見れないようにしておき,次に出社した際に退職する上司を除いてミニ会議が開かれたそうです。内容はセクハラに関するものでしたが,それが定年退職する方の上役の耳にも入り徹底的に調査するようにとのことで,宴会に参加した女性社員に聞き取りを行うと全員が否定。本人にも事情を聴き「身に覚えがない」とのことだったので,疑義を晴らすためにも筆跡鑑定で執筆者を特定して聞き取りを行おう。ということで筆跡鑑定に臨まれるという流れになりました。
鑑定結果が出る前に定年退職の日を迎えたその方は,決して晴れ晴れとしているとは言えない空気のなか会社を去り,鑑定結果は,宴会に参加していた女性社員のうち3人が該当し,事情の聴きとり等を行い,悪質な場合は退職金のカットもあり得るだろうとのことでした。
無記名の寄せ書きは危険
筆跡鑑定の依頼例として少ないものの,鑑定を行う場合には寄せ書き部分から筆跡を採取しますので,それを誰が書いた分からないようでは筆跡鑑定に使うことができませんから,寄せ書きは必ず最後に記名をしてもらいましょう。
本日は,ともすると危険な道具になりえる寄せ書きの筆跡鑑定について書かせていただきました。
114回目の筆跡試料の作成
ルールなどもよく知らず,ただのテレビ観戦者ですが,ラグビー日本代表選手お疲れさまでした。
「紳士のスポーツ」という異名があることを実感できた日々でした。
最後までお読みいただき,ありがとうございました。