筆跡鑑定と脳科学における手続記憶について
脳科学における手続き記憶
手続き記憶とは?
手続き記憶とは、体で覚えた技能や習慣に関する記憶のことです。例えば、
- 文字を書くこと
- 楽器の演奏
- 自転車の乗り方
- 料理の手順
- パソコンのキーボード操作
などが挙げられます。これらの技能は一度身につけると、意識しなくても自然と体が動くようになります。
手続き記憶の特徴
- 反復練習によって形成される:何度も繰り返すことで、体が動きを覚えます
- 無意識的に発揮される:意識しなくても、自然と体が動きます
- 長期的に保持される:一度身につけると、忘れにくいです
- 言葉で説明するのが難しい:文字の書き方を言葉で説明しようとしても、なかなか難しいですね
手続き記憶に関わる脳の部位
手続き記憶の形成には、主に以下の脳の部位が関わっています。
- 大脳基底核:運動の制御や習慣学習に関わる
- 小脳:運動のタイミングやバランスの調整に関わる
これらの部位が連携して、複雑な運動や技能をスムーズに行えるようにしています。
手続き記憶と他の記憶との違い
記憶は、大きく分けて「陳述記憶」と「非陳述記憶」に分けられます。
- 陳述記憶:言葉で説明できる記憶(例:昨日の夕食、歴史の出来事)
- 非陳述記憶:言葉で説明できない記憶(例:文字の書き方、楽器の演奏)
手続き記憶は、非陳述記憶の一種です。
手続き記憶の重要性
手続き記憶は、私たちの日常生活において非常に重要な役割を果たしています。
- 日常生活の効率化:無意識的に行動できることで、考える手間が省けます
- 運動能力の向上:スポーツやダンスなどの技能習得に不可欠です
- 学習能力の向上:楽器演奏や語学学習など、反復練習を伴う学習に役立ちます
手続き記憶は、私たちの生活を豊かにするために欠かせない記憶なのです。
筆跡鑑定における手続記憶
文字を書くことは手続き記憶によるものですが、筆跡鑑定における手続記憶の捉え方は執筆者の書字能力を見極めることに直結しますので、次の項目が重要になります。
- 個人内変動の有無:筆跡において毎回変化する箇所を特定し観察します
- 経年変化の有無:時間経過で変化する筆跡やその特徴を特定し観察します
- 常同性の有無:筆跡においていつも同じように書ける箇所を特定し観察します
手続記憶は日々更新されていますので、その変化の有無を見極めることは筆跡鑑定において欠かせません。
手続き記憶による筆跡の観察
手続き記憶は時間経過とともに蓄積され、ときに改正されて変化していきますので、筆跡鑑定では次の項目を調べます。
- 筆跡の執筆時期:筆跡が書かれた日付を時系列に沿ってまとめます
- 資料の性質:メモと手紙では執筆時の意識が異なるため、鑑定する書類と対照する書類の性質を極力合わせます
- 執筆者の年齢:経年変化を起こしやすい年齢か否かを把握します
- 執筆者の状態:執筆者の利き手を把握し、場合により当時の体調等も把握します
これらは「伝統的な筆跡鑑定」の範疇になりますが可能な限り把握し、その後、筆跡鑑定を行う筆跡を一つずつ取り出して「計測的な筆跡鑑定」や「科学的な筆跡鑑定」を行い、同異判定を導き出しています。詳細は「筆跡鑑定の方法」に掲載していますので御参考ください。