筆跡鑑定セルフチェック11回目
筆跡鑑定の実務的な比較観察その7
「筆跡鑑定を自分でやってみよう!」という企画も今回で11回目を迎えました。前回(2月21日)は,筆跡の経験変化についてレクチャーしましたが,現役の筆跡鑑定人でも筆跡の経年変化を考察しない人がいますので,万一,そういった鑑定人が出した鑑定結果に納得できないときは,経年変化をどのように観察しているのか,またはきちんと考察しているのかを問いただしてみると良いでしょう。もしも経年変化を考察に加えていない鑑定人であれば,それはモグリの鑑定人ですから,別の鑑定人を立ててきっちりと反論しましょう。
さて,今回は文字列の観察方法をレクチャーします。文字列というのは氏名や住所のほか,固有名詞や文節を含む文字の集合を指します。
筆跡鑑定における文字列の観察
下図は私が書いた文字列です。こうした文字列の観察方法は様々ありますが,私は下図のように,筆跡の上下左右の突端に接触するように,水平・垂直の線を描き,その線の交点を結んで四角形を形成し,この「仮想枠線」を比較観察に用いています。
この仮想枠線の便利なところは,筆跡の縦幅や横幅,面積などに置き換えることができる点です。全ての筆跡に同じ条件で仮想枠線をつけていきますので公平性があり,また,数値に置き換えることができるので客観性があり,更に,第三者が容易に検証することができるという中立性までを担保していると考えられます。
裏を返すと主観や忖度が入り込む隙がないとも言えますので,「観察されたまま」の鑑定結果しか導き出すことができないので,感情を排除する装置のようなものでもありますが,筆跡鑑定を自分でやってみよう!という方は是非お試しください。
文字列の面積比率の観察
文字列の面積比率の観察方法は,仮想枠線をつけた後,縦幅と横幅の数値を得ることができますので,それを元に各筆跡の面積を算出します。次に「神奈川」の「神」字の面積を「1.00」として,後続文字である「奈川~」の面積の比率を計算します。「神:1.00」「奈:0.90」「川:0.70」というように面積比率がでそろったら,上下文字列の面積比率を比較して,類似性(相違性)の有無を見極めます。
文字列における文字間隔の観察
文字間隔の観察方法はとても簡単です。上図3行目に当たる図のように,仮想枠線はそれのみを取り出すことができますので,筆跡を除いた状態で仮想枠線を重ね合わせて文字間隔の異同を観察します。上図では「神奈川」の「川」と「県」,また,「県」と「横浜市」「横」の間隔が広いことがわかりますが,上下文字列で同じ状態になっていますので,この場合は類似性があると判断されます。
文字列の偏向状況の観察
文字列の偏向状況の観察では,横書きの場合は筆跡を左から右へ観察して行き,縦書きの場合は筆跡を上から下へ観察して行きます。上図の場合は,仮想枠線の四隅を対角線で結び,その中央を隣り合う筆跡の中央と結んで上下に偏向する様子を観察していますが,仮想枠線の上下を線で結び観察する方法もあります。上図では「神」から「奈」へわずかに上昇し,「川」へ向かい下降。「県」へは再び上昇していく状態が観察されますが,上下文字列を仮想枠線で見ると類似性が一目瞭然ですね。
文字列の観察は個々の筆跡の観察に勝る
これまでは個々の筆跡の観察方法をレクチャーしてきましたが,固有名詞などの文字列は,それを構成する文字を全部を書き終わらないと完成しないため執筆者による筆癖が色濃く残るものであり恒常性を有していますので,筆跡鑑定において比較できる文字列が執筆されているなら,絶対に観察を行う必要があります。
なぜなら,他人の筆跡を真似して文字を書く場合,個々の文字を真似て書くことはできても,文字列を真似て書くことは不可能に近く,筆跡鑑定における文字列の観察は,個々の文字の観察より多くの判断材料を得ることができるので,文字列の観察ができるようになると,筆跡鑑定の精度と鑑定結果の確度が一気に向上するからです。
今回はここまでです。不定期連載ですが次回をお楽しみに。
通算131回目の筆跡試料の作成
神奈川県も東京都に右へ倣えで,休業要請がでました。
個人的には,学校を閉校させておきながら,遊興施設などが開いているというのは,新型コロナウイルスを封じ込めることを考えたときに効果が薄いと思いますから賛成です。しっかりと売り上げ補填がされることを願いますが。
そんな中,庭の菖蒲が花のつぼみを膨らませています。次回当たりにタイミングよく満開になりましたら披露したいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございます。この次まで,あなたと私に良い風が吹きますように。