筆跡心理学
筆跡心理学とは
筆跡心理学とは,筆跡からそれを書いた人の基本的性格や,執筆時の心理を読み取る学問です。西欧では150年近い歴史があり,研究も盛んに行われていて、フランスでは国家資格制度もあります。近年は日本でも身近になり犯罪心理学の予備知識としても必要とされる学問になりつつあるようです。
文字の良しあしは無関係
筆跡心理学という学問上,文字の良しあしは重視されません。筆跡がきれいとか,あまりお上手ではないとか,そういうことよりも「どうしてそのような筆跡になるのか」を重視します。
文字を執筆するということは,生まれてそのままの状態でできるものではなく,練習を通して身に着けていきます。これを「手続き記憶」といい,脳科学では自転車に乗ることや楽器の演奏などと同じに分類されるものです。こうした同じ経験を反復することで会得できる行動は100人いれば100通りの動き方があり,それは「個性」と呼ぶことができます。
POP文字や何かを模倣した筆跡を除き,人が自然体で書いた筆跡は,執筆時の行動がその人の脳とつながっていることになりますので,執筆者の基本的性格やそのときの心理状態が表れると考えられています。
筆跡心理学は,筆跡から,執筆時の心理状態を読み解こうとするものですので,文字の良しあしは無関係と言えるのです。
筆跡心理学にできること
筆跡心理学は,執筆時の心理状態や基本的性格などを読み取ることを目的としていますので,筆跡診断とは異なり,一回しか書かれていない筆跡からでも分析が可能です。筆跡心理学には,重視される「特徴点」というものがあり,そうした部分を観察することにより,ある程度まで分析することを可能としています。
こうした特性から,近年では面接などに取り入れる法人も増えてきているようですが,市販されている書籍には特徴点の解説はありませんので,少々本を読んだ程度でこうした場に臨むことは好ましくありません。誤った知識で貴重な人材を得る機会を失うからです。
筆跡心理学の効果
筆跡心理学では,分析結果が「実際と異なる」と言われることがあります。これは「自分が知らない自分」に遭遇したようなものと考えられます。
1955年にアメリカのサンフランシスコ州立大学の心理学者ジョセフ・ルフトとハリ・インガムが発表した「対人関係における気づきのグラフモデル」というものがあり,後に心理学では『ジョハリの窓』という考え方として定着していますが,心理学には「自分」の心理を4つに分類することができるという考えがあります。
- 開放の窓:公開された自己(自分の他人も知っている「自分」)
- 盲点の窓:他人が知っている自己(自分では気が付いていない「自分」)
- 秘密の窓:隠された自己(自分は知っているが他人には知られていない「自分」)
- 未知の窓:誰からも知られていない自己(自分の他人も知らない「自分」)
筆跡心理学の分析により「盲点の窓」と「未知の窓」が明らかとなったときに,人は「実際と異なる」という感想を持つそうです。
それでも,自分の知らない自分を知る手掛かりになるのですから,受け入れる度量は持っていたいものです。