印章鑑定と印章の解説
印章鑑定と印章鑑定書の作成
印章鑑定は書類に押印された印影を真正な印影と比較鑑定し,真贋を明らかにするものです。
鑑定にかかる費用として,まずは鑑定結果がどのようになるかをご確認いただくため「簡易印章鑑定書:33,000円」をお勧めしています。その他,複数の印影を鑑定する必要があるときは「簡易印章鑑定書(集団鑑定):55,000円」や,裁判所提出用の「印章鑑定書:110,000円(実印との比較鑑定を要する)」など,お客様の用途に応じて承ります。また,印影の鑑定を併せて行う方もいらっしゃいますが,そのときは「筆跡・印章鑑定報告書:55,000円」をご用意しております。
印章とは
印章には,ハンコ,印鑑,印影など,呼び方は人それぞれですが,専門的な用語が存在します。
- 印顆(いんか)・・・ハンコ本体のこと。
- 印面(いんめん)・・・名前などの文字が彫られている面。
- 輪郭線(りんかくせん)・・・名前などが彫られている部分を囲む線。
- 文字線画(もじせんかく)・・・名前などが彫られている線の部分。
- 印肉(いんにく)・・・朱肉のこと。
- 着肉(ちゃくにく)・・・印面に印肉を付着させること。
- 押印(おういん)・・・自筆署名の後にハンコを押すこと。捺印ともいう。
- 印影(いんえい)・・・紙などに押印された印面の鏡面形状。印鑑の正式名称。
- 印鑑(いんかん)・・・実印や銀行印など,届出がされている印影。
- 印章(いんしょう)・・・印顆を作り,押印し,印影を残す行為全般を指す。
印顆を使い押印を行い,書類などに印影を残すこと全般を印章と呼びます。弊所で承る鑑定依頼は「印影」が最も多く「印影鑑定」と呼ぶこともあります。
ちなみに「押印」と「捺印」はハンコを押捺する行為ですが,「捺」字は当用漢字ではないため「押」字を使った「押印」という熟語が広く浸透し,養子縁組届など行政手続きに用いられる様式では「署名押印」とされています。
ネット上では,住所や氏名などが印刷やゴム印で記されたもの(記名といいます)の書類にハンコを押捺することを「記名押印」とし,自筆署名に押捺することを「署名捺印」として,分類するという記述も見られますが,当研究所では行政様式の「署名押印」に準じるとともに,鑑定書をお読みになる方の煩雑な思いを軽減させる目的から,ハンコの押捺を「押印」に統一しています。
印章鑑定とは
印章鑑定は2種類あり,一つは役所や銀行等に登録してある「印鑑」の真贋を判断するもので,もう一方は認印やインキ浸透印等,登録されていない「印影」の真贋を判断するものです。本当はもう少し範囲が広いのですが,弊所では「印鑑鑑定」と「印影鑑定」を併せて「印章鑑定」と呼んでいます。印章鑑定には以下の要素が含まれます。
印鑑(印影)の真贋鑑定
印鑑(印影)は,彫られている文字や輪郭線をいつも同じ形状に表すことができ,不変的であることから,それを持つ者を「本人」であると認めることができるものとして誕生しました。それ故に印章鑑定では印鑑(印影)の形状が一致するか否かを観察し異同の判断を行います。ただし,朱肉のつき方や朱肉の種類,押印するときの力加減,紙の種類,紙の下がどのようになっているか,何度目のコピーであるか等々,押印環境や書類の状態にも意識を傾けた実験や検証が必要となります。
書類偽装と印面偽造の検証
印鑑は契約書などの重要書類に押印することが多いため,ときとして悪事に利用されることがあります。一つは,とある書類に押印されている印鑑を他の書類へ「写し」,その書類に押印されているかのように見せる「印鑑偽装」と,もう一つは,とある書類に押印されている印鑑から彫られている文字や輪郭線が同じものを作る「印鑑偽造」です。こうした印鑑偽造等の可能性の有無について実験と検証を基に判断を行います。
当研究所の印章鑑定の特長
当研究所は,裁判所から印章鑑定の嘱託実績があります。
当研究所の印章鑑定は,スーパーインポーズ検査のみでは偽造を見抜くことができないとする考えのもと,十数種類を超える偽造印影等のサンプルデータを基に,印章の真贋鑑定を行います。
印章鑑定の現状
印影は筆跡と異なり,いつでも同じ形状になることを目的として作られ,それを持つ者を本人であると証することができますので,日本では重要書類に押印が求められますが,印鑑登録がある印影を「印鑑」と呼び,それを含む全般を「印影」と呼び分けています。
かつて,印影の偽造を行う場合,印顆から偽造する必要がありましたが,それは素人には到底不可能な技能であり,また彫刻師でも,印影から印面を作成することは容易ではないため,これまでは,スーパーインポーズによる画像の重ね合わせを基本とした鑑定方法で,真贋の見極めが有効でした。
しかし,現代ではパソコンやプリンター機器が各家庭にも普及し,若干の知識と環境があれば,誰でも簡単に印影を転写した偽装書類の作成ができるような状況にあります。
弊所でも,印影鑑定にはスーパーインポーズを使用した鑑定方法を採用していますが,それだけで真贋の判断を行うのは不十分であり,印影がどのような状態であるのかを,詳しく観察する必要があると考えます。
印影偽装の鑑定方法
真正な印影をもとに,別の書類にその印影を移して,あたかも押印されているように見せかけることを「スキャニング偽装」と呼んでおり,契約書偽造などでは最も多くみられますが,書類原本では簡単に見破ることができるスキャニング偽装も,コピーされた書類になると見極めは困難になります。
コピー機のタイプ別分類による研究と,印影を照合
上図は左から,原本印影,原本印影のレーザーカラー複合機によるコピー印影と,インクジェットプリンターによるカラーコピー印影です。元は一つの印影ですが,原本印影と比較して,コピー印影は文字線画の色合いやざらつき感が異なることが分かります。
印影鑑定を行う場合,書類を手に取り観察すれば,印影が原本かコピーかの判断ができるものもありますが,弊所では目視のみに頼らず,マイクロスコープやLEDトレース台による観察を行います。書類を見たとき,うら面に印影のにじみがあれば「原本」であるように思いこんでしまいがちですが,近年は両面コピーの精度と写実性がとても向上していて,書類の裏ににじみ出た印影の朱肉を,両面コピーでそのまま再現することが可能だからです。一瞥しただけで判断することは初動ミスにつながりかねませんので,慎重さが求められます。
また,日本では現在,レーザープリンターとインクジェットプリンターがプリンターの主流であるため,弊所ではこの2機種において,研究と考察を深めています。
印影の拡大観察が重要な理由
※左図:レーザーコピーの拡大画像,右図:レーザーコピーを使用した偽造印影の拡大画像
※左図:インクジェットコピーの拡大画像,右図:インクジェットコピーを使用した偽造印影の拡大画像
印影を拡大観察することにより得られる情報は,鑑定結果に重大な影響を及ぼすことがあります。
上図は,印影をコピーした画像と,偽造印影を拡大した画像です。その違いは,様々なところに現れるのですが,肉眼はもとより,拡大鏡を覗いた程度では決して観察することができず,紙の繊維が見える程度の拡大には,マイクロスコープによる観察が欠かせません。
印影鑑定における朱肉と紙の関係性
同じハンコを用いて,同じ朱肉を使っていても,押印する料紙の種類により印影の様相が異なって見えることがあります。また,同じハンコを用いて,同じ料紙に押印しても,付着させる朱肉等の種類が異なると,印影の様相が異なって見えることがあります。そのときの組合せにより印影の様相に違いが出てしまい,それを理由に「相違している」という結果を導かないように,弊所では朱肉と料紙の関係性についても研究を進めています。
朱肉の種類
朱肉には,粘度の高い「印肉」や,中国製の「朱泥」,スタンプ型の容器に入った液体状の「朱肉液」,ゴム印などに用いる朱色のインク「スタンプ台」,印面に朱液が染み出してくる「スタンプ印」等があります。
厳密にはスタンプ台やスタンプ印は朱肉とは異なりますが,押印する現場では何が使用されているか分かりませんので,弊所ではハンコに「なにか」を付着させて押印する「なにか」を「朱肉」と位置付けています。
料紙の種類
料紙では,役所の届出用紙のように薄くつるつるとした料紙と,プリンターに使用される「普通紙」が大多数を占めています。つるつるとした料紙では,印影が鮮やかになりますので,契約書や遺産分割協議書など大切な書類に使用されていることをよく見かけます。
一方の普通紙は,自前で契約書などを作成してプリントアウトした書類としてよく見かけますが,紙質が粗いも物もあるため,粘度の高い朱肉を使用して押印しないと,印影が不鮮明になることがあります。
弊所では,それぞれの組合せにより印影の様相がどのように変化するかを研究しています。
法務局で写真撮影をする場合の注意点
実印が押印された重要書類は,往々にして法務局に保管されていることがあります。法務局の窓口では保管されている書類を閲覧することができますが,コピーを取ることはできません。そのため写真撮影が必要になりますが,このとき気を付けなければならないことがありますので注意が必要です。
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