筆跡と印影の経年変化の研究
筆跡試料の作成-72回目
今回で筆跡試料の作成も丸2年が経ちました。
1日・11日・21日と「1」の付く日に作成しますので,元旦でも作成しています。
上の写真は,この時代に確かに試料作成をしていたという証拠となるように始めました。時事ネタを挟んだりしましたが,読み返してみると懐かしくさえ思います。
筆跡と印影の時期を特定することは可能か
「書いてから何年くらい経った筆跡であるか調べてほしい」
「契約した当時の印影か調べてほしい」
当研究所では,このようなご相談をいただくことが頻繁にあります。しかし,筆跡鑑定や印章鑑定をはじめ,特殊鑑定の分野に考えを広げてみても,このご相談を解決する手段はありません。なぜなら,比較対照できるサンプルが存在しないからです。
そこで,今現在は無理だが,いずれ解決することができるように研究しよう。ということで始めたのが,このブログでご紹介している筆跡と印影の研究用試料の作成です。まだ2年分のデータしかありませんが,現在わかっている経年変化の様子を少しだけご紹介します。
紙の色味の観察
感熱紙の場合
上図は,試料作成を開始した2016年8月の感熱紙を全景で撮影した写真です。
左は封筒に入れず野ざらしの状態で,右が封筒入りです。空気や紫外線に当たることで経年変化の違いが出ることが予想されたので,2種類の環境を用意しました。全体の色味が変わっていることがわかります。
普通紙の場合
上図は,試料作成を開始した2016年8月の普通紙を全景で撮影した写真です。
左は封筒に入れず野ざらしの状態で,右が封筒入りです。感熱紙ほどではありませんが,野ざらしのものはうっすらと日焼けした感じになり,全体の色味が変わっていることがわかります。
インクや朱肉等の色味の観察
感熱紙の場合
左は野ざらしの感熱紙で,右は封筒に入れて保管した感熱紙です。
野ざらしの感熱紙は,朱肉やスタンプインクの変色が顕著で,ぼんやりとした滲みがでています。封筒に入れて保管したものは,同時に執筆と押印を行っていても,変色や滲みが少ない状態です。
最近では,レジで発行される領収証やレシート等は感熱紙が大多数を占めており,感熱紙の代表的な用途になっていますが,1980年から90年代にかけて活躍したワードプロセッサーで印刷された契約書等は今でも残っているため,そうした書類の筆跡鑑定や印章鑑定に役立てることができると考えています。
普通紙の場合
左は野ざらしの普通紙で,右は封筒に入れて保管した普通紙です。
目視では,朱肉やスタンプインクに違いがあるようには見えませんので,水や油分等の成分分析を行い,乾燥度合いなども知る必要があります。
普通紙に代表される紙質は,遺言書や契約書等から,手紙,履歴書,ノート,カルテなど様々な用途で一番多く使われているため,多くのサンプルと材料分析などによる研究が必要となります。
これまでの成果として
開始当初,変化が起こることは「ただの予想」でしかありませんでしたが,紙やインク,朱肉等の色味には変化が起こり,また,保管環境によってその度合いも異なることがわかりました。たった2年の集積ですが,この研究の未来を展望することができそうなので,それだけでも成果があったと思います。
最後までお読みいただき,ありがとうございます。