筆跡鑑定セルフチェック 第1回

筆跡試料作成2019

筆跡鑑定を自分で行う

筆跡鑑定を依頼する前に,問題となっている筆跡が,はたして鑑定することができる状態にあるのか,そして,筆跡鑑定を行った場合にどのような鑑定結果になるのかを予見する方法ついて連載します。 なお,筆跡鑑定では問題となっている筆跡を「鑑定筆跡」その書類を「鑑定資料」といい,比較する筆跡を「対照筆跡」その書類を「対照資料」といいます。

まずは鑑定筆跡を観察する

鑑定筆跡は筆跡鑑定の中心になります。鑑定筆跡を軸として対照資料との共通性や異動の判断を行いますので,鑑定資料は基本的に原本を用意します。 原本がお手元にない場合はコピーを入手しますが,コピー回数が少ない方が筆跡鑑定には向いていますので,できる限り原本から直接カラーコピーした「一次コピー」を入手します。 鑑定資料が入手出来たら,筆跡鑑定の事前準備として,以下を確認します。

鑑定筆跡の書式

筆跡鑑定では,縦書きの筆跡であるか,それとも横書きの筆跡であるかを参考にします。これは,同じ文字を書いても,縦書きと横書きで筆跡が変化する人がいるからです。

鑑定筆跡の筆記具

次に,鑑定筆跡の筆記具を推定して筆跡鑑定の参考とします。全体的にボールペンの使用率が高く,次に鉛筆が高い傾向にあり,フェルトペンや毛筆といった筆記具が一般的です。 ボールペンは油性と水性に加え,滑らかな書き心地のゲルインクが人気を得て,近年増加していますが,見た目は細字のフェルトペンのように見えることがあります。見分け方は,筆跡の中にくぼみがある方がゲルインクボールペンです。

鑑定筆跡の書かれ方

行書体の筆跡

日本語の筆記で,最も普及している書体は行書体です。日常的に目にすることが多く,未成年者から高齢者まで幅広く使用されています。特徴は点画がつながっている箇所があることですが,これは速筆によるもので紙からペン先が離れないことにより起こる現象です。 筆跡鑑定では「連続送筆の発生」といいますが,行書体で文章が書かれている場合,ひとまずは執筆者の日常的な筆跡であると見ることができます。

楷書体の筆跡

点画が一本ずつ書かれた書体です。未成年者に多く見られる書体で,文字を習得している過程にあり,書き慣れないことや初めてその文字を書く場合などで丁寧に書かれるため,遅筆になることにより,連続送筆の発生がありません。 また,怪文書等にも見受けられますが,この場合は,執筆者が普段の筆跡を隠そうとすることによるものであり,連続送筆の発生が散見されることがります。

草書体の筆跡

基本的に縦書きで執筆されます。点画をつなげる連続送筆の発生が随所に見られ,加えて,上下の文字が繋がる様子も見られます。これを筆跡鑑定では「連綿」と呼びます。 行書体や楷書体を対照資料としたとき,筆跡鑑定の難易度が高くなる書体です。

普通の字?殴り書きの字?

上記の三書体を踏まえて,鑑定筆跡の書かれ方を観察します。楷書体で整然と書かれていても,内容が怪文書の場合は執筆者本来の筆跡をわからなくする意図で執筆された「韜晦筆跡(とうかいひっせき)」の可能性があります。 逆に,殴り書きのように見えても,鑑定資料が遺言書等の場合,高齢による手の震えなどで文字が乱れているだけかもしれません。 このように,鑑定資料がどのような性質の書類であるのかを考慮しながら,そこに執筆されている書体との組み合わせに違和がないかを観察しておきます。これにより対照筆跡や対照資料の収集の仕方に工夫が必要になるからです。

鑑定筆跡の文字を調べる

最後までお読みいただき,ありがとうございました。 筆跡鑑定は,鑑定筆跡を執筆した人物を特定する目的で,対照筆跡を用意して比較観察を行いますが,やみくもに対照資料を集めればいいわけではありません。対照資料には,鑑定筆跡と同じ漢字や平仮名などが必要であり,そうした共通文字がないと,筆跡鑑定を行うことはできないからです。 まずは,鑑定筆跡の中に人名や住所などの固有名詞があるか,また,「平成」や「相続」等の熟語があるか,更に,「~します。」や「~させる。」などの文字列があるかなどを調べます。そうすることにより,鑑定筆跡には漢字が多いのか,それは一般的な漢字なのか,特殊な用語に用いられる漢字なのか。といったことや,漢字で書けるはずなのに平仮名が多用されている。などの傾向を把握することができるので,この次の対照資料の収集の方向性を掴むことができるのです。 次回へつづく。

通算89回目の筆跡試料作成

平成最後の建国記念の日です。横浜はとても寒く,朝は雪が舞っていました。
2019.2.11筆跡試料の作成
本日の読売新聞の記事から,自身の老後について考えてみました。 今年は年男なのですが,次の年男になるときに還暦を迎えます。その頃の筆跡鑑定はどのように変化しているのか。果たして,自分はそれについていけているのだろうか… 先行きはいつも不透明で,誰も正解を教えてくれませんが,生涯現役でいられることに,祈りを欠かさないようにしようと思いました。
最後までお読みいただき,ありがとうございました。