筆跡鑑定セルフチェック第2回
筆跡鑑定を行うため,対象者の筆跡を集める
2月11日に「筆跡鑑定セルフチェック第1回」としてブログを書きましたが,その後メールを何通かいただき,皆さん素人の方だと思いますが,筆跡鑑定を自分で行ってみようという意気込みが強く,「続きを早く」というご要望が多かったので,予定より早いペースになりますが2回目の筆跡鑑定セルフチェック講座を始めます。
今回は,筆跡鑑定を行うに当たり,前回の「鑑定資料」と対をなす,対象者の筆跡が書かれている「対照資料」について書きます。
対照資料は,鑑定筆跡を書いた人物をはっきりさせるための,比較対象する筆跡が書かれた書類等を指しますが,鑑定所によっては書いた人物を指すこともあります。弊所では対照資料にある筆跡を執筆した人物を「対照資料執筆者」と呼んでいます。
鑑定資料や鑑定筆跡の観察が筆跡鑑定を行う上で重要であることは前回触れましたが,対照資料は執筆環境や執筆状況等を鑑定資料と合せて行く必要があるので,鑑定資料の観察を終えてから取り掛かります。
筆跡鑑定のための対照筆跡収集の注意点
- 鑑定筆跡とおなじ書式ですか。
- 鑑定筆跡と同様の筆記具ですか。
- 鑑定筆跡と同様の書体ですか。
- 鑑定筆跡と同様の書かれ方ですか。
上記は,鑑定筆跡の観察ができていれば難しい作業ではないと思います。次に執筆時期について解説します。
筆跡鑑定は執筆時期をまとめることが大事
遺言書や契約書,借用書など,鑑定資料には一般的に日付が書かれています。これを「執筆時期」と呼んでいますが,怪文書等で日付がかかれていない場合は,それが発見された日付を執筆時期に仮定します。また,郵便物であれば消印を頼りにしますが,消印が良く見えない場合は,最寄りの郵便局へ持ち込むと,インビジブルバーコードから大まかな配達時期を教えてくれることがありますので御参考ください。
対照資料の集め方
対照資料を収集する際は,鑑定資料の執筆時期を中心に,その前後に書かれた書類を探します。成人であれば前後10年以内は許容範囲内であり,学生や高齢者の場合は文字が変化することが多いため,執筆時期がなるべく近い書類を集めてゆきます。
筆跡鑑定を御依頼いただく際に,「この遺言書は本人が書いたものではないと思うので,日付も本当かどうか怪しい。対照資料は遺言書の日付を中心に集めても大丈夫なんですか。」と,おたずねになるお客様がいらっしゃいます。私は「遺言者本人が執筆された対照筆跡を時系列順に並べ,その中に鑑定筆跡を投入して観察すると様々なことがわかりますので,大丈夫ですよ。」とお答えします。
自分の筆跡の探し方
対照資料執筆者が,筆跡鑑定を依頼されるご本人という場合がありますが,いざ自分の筆跡を探そうとして見つからず,苦労されているケースをお見受けします。その上,筆跡鑑定に使用できる対照資料は,筆跡鑑定を行おうとする現在より前の,日常的な筆跡であることが望ましく,筆跡鑑定自体の信ぴょう性を高めることにもなるので,日付のないメモなどは対照資料として余りふさわしくないということも,そうした状況に拍車をかけているのかも知れません。
「部屋や家の中を探しても,一枚も手書きの文字が見つからなかった。」といって,筆跡鑑定をあきらめざるを得ない方もいらっしゃいましたが,親戚や友人のお宅にある結婚式などの芳名帳や,アパートや駐車場などの賃貸契約のある不動産屋,マイカーローンの契約先,コンテナボックスの契約先,銀行などの金融機関,かかりつけの病院,法務局など,保管しておく書類がある場所や,法律により書類を保管する義務がある所などをくまなくお探しになられると,意外なところから見つかることがあります。
また,近年の生命保険や携帯電話,金融機関などでは,契約時の署名にタッチパッドを使用して署名をすることが増えていますが,こうした筆跡をプリントアウトした書類を対照資料として使用することができますので,使用目的をキチンと話して協力を得ると良いかも知れません。
筆跡鑑定の信ぴょう性を上げる
筆跡鑑定の結果に信ぴょう性をもたらすためには,筆跡資料が偏らないように注意する必要があります。
鑑定資料は「疑義のある,又はかけられている筆跡」ですから「筆跡鑑定の中心」になりますので,できるだけ原本で鑑定することが良いでしょう。
対照資料は「本人が実際に書いた筆跡」であり,鑑定資料との異同を判断する上での重要な役割を果たしますので,鑑定資料と執筆時期が大きく離れたり,筆記具や書式が異ならないように注意します。
第三者が鑑定結果を評価する際のポイントとして「どのような筆跡資料を使い,筆跡鑑定をしたのか。」ということが重視されますが,筆跡鑑定の信ぴょう性を上げるためには,できる限り最適な筆跡資料を集めてから筆跡鑑定に臨むと良いでしょう。
筆跡資料の確実性と信ぴょう性
筆跡鑑定を行う場合,対照資料としてまずは「確実に本人の筆跡である」書類を集め,次に「本人の筆跡である信ぴょう性の高い」書類を集めます。その中から,鑑定資料と比較対照できる条件に合うものを選抜するという方法が手っ取り早くて良いと思います。
- 「確実に」とは,契約書の「本人自署」とされている欄の筆跡などです。
- 「信ぴょう性が高い」とは,その書類に記入することが本人にしかできない業務上の書類や答案用紙,本人が持ち歩く手帳,及びノートなどです。鍵のかかる机の中に入っていた書類や,時間と場所を考えた際に本人しか書くことができなかった。というようなことも信ぴょう性が高い筆跡であると言えます。
こうした要領で対照資料を集め,筆跡鑑定を行う材料をまとめていきます。
次回から鑑定作業編に入ります(不定期連載です)。
通算91回目の筆跡試料作成
米朝首脳会談の共同声明が見送られたとか。
この二人が核ミサイルのボタンを押すことができると思うと,全世界を使って人命を左右するゲームをしているように見えてきます。
最後までお読みいただき,ありがとうございます。