筆跡鑑定セルフチェック10回目

筆跡試料作成2020

筆跡鑑定の実務的な比較観察その6

前回(2月11日)に続き「筆跡鑑定を自分でやってみよう!」という方向けに今回も書いていきたいと思います。今回は,「筆跡が年齢を重ねることにより変化する」ことについてレクチャーします。

筆跡の経年変化

文字の執筆は,文字をどのように認識しているかにより,書字行動を経て表出される文字形態に変化を及ぼすと考えられています。
日本では一般的に,文字を覚えて駆使する就学期,日常的に文字を執筆する成年期,退職や世代交代を経た老年期の,大きく分けて3つの時期があり,それぞれの期間に,筆跡が変化する要素が存在すると考えられます。

筆跡鑑定では,同一人の筆跡の経年による環境や身体,能力,外部要因等による変化の有無を,可能な限り観察する必要があると考えます。

筆跡鑑定における執筆環境の変化

執筆環境の変化とは,学生や社会人などの年齢による変化です。一例として,学生時代には,はやり文字や,自分勝手な乱雑な文字を書き,社会人になると,はやり文字や乱雑な文字を執筆しなく(できなく)なるため,その傾向が次第に消えてゆくといった変化などです。

筆跡鑑定における身体能力の変化

身体や能力の変化とは,主に肉体年齢にかかわる変化です。幼少期ではうまく書けなかった文字が,青年になるにつれ経験が積まれて書字行動の能力が向上し,うまく書けるようになるといったことや,一方では,高齢のため手が震えるようになり文字に波状線が出てくる・老眼が進み小さな文字が書けなくなるといった,高齢化によるもの,又は,脳障害による麻痺などのため,思うように文字が書けなくなることや,転倒して手首等を骨折してふだんどおりの文字を書くことができなくなるなど,疾病や負傷などにより,以前できていたことができなくなったり,ふだんできることが一時的にできなくなったりする。といった変化です。

筆跡鑑定における外部要因による変化

外部要因による変化とは,学校などで「はやり文字」の書き方を覚えたり,筆順の間違いを指摘されて(気づいて)修正したりすることや,親子・兄弟・配偶者・職場の仲間など長期間にわたり長時間をともに過ごす人の文字に似てしまうなど,外部からの様々な刺激に対して,書き方が変わるといった変化です。

筆跡鑑定において経年変化の検証はとても重要

上記の可能性を考慮し,筆跡鑑定では,対照資料において経年変化を検証する必要があります。経年変化があると認められるときには,その度合いを観察し,更に同じ人物の中に存在する,書き方の癖である「筆癖(ひつへき)」を観察します。この筆癖を弊所では常同性とも表記しますが,この常同性に対して,比較対象する筆跡がどのように執筆されているかを,送筆画ごとの詳細な部分や,文字列の状態までを精査して,鑑定結果の判断材料としていきます。

わかりやすく言うと,本人(対照資料)の筆跡を時系列順に並べて経年変化の有無と恒常的な書法を見出し,その中に鑑定資料を投入してみるということです。鑑定資料が対照資料と違和がなければ同一人傾向の筆跡であろうという一定の見方ができますし,違和があるようならその違和を徹底的に洗い出して,客観性を持たせるための計測などを行います。

経年変化を否定する筆跡鑑定人は要注意

余談ですが「成人になると筆跡は変化しない。」とか「筆跡は長い間変化しない。」などと筆跡の経年変化を否定する,「筆跡鑑定人」を自称している者がいますが,それは経年変化の観察をする能力や知識がない者,或いは,面倒なことはしたくないという「モグリの筆跡鑑定人」ですから,一切信用してはいけません。

通算126回目の筆跡試料の作成

花粉の季節になりました。マスクが品薄なのでお困りの方が増えていると聞きます。

新型コロナウイルスの感染者が増えるなか,テレワークを推奨する企業が出てきました。私はどちらかというとお客様とテレワークに近い働き方をしていますので違和感がないのですが,戸惑うといったご意見も中にはあるようです。私が会社員をしていたころを思い返してみると,直接会社へ赴いて仲間と仕事をすることには,そこに存在すること自体にも意義がありましたので,今回のきっかけになったことはよくありませんが,働き方改革の一環としてバランスよく広がるといいですね。

筆跡鑑定の研究用試料の作成 2020年2月21日

様々なイベントが中止を余儀なくされる一方で,「イベント一律自粛求めず」というおふれも出ているようですが,卒業式や入学式,お花見など春の華やかな雰囲気まで壊されないことを願いたいと思います。


最後までお読みいただき,ありがとうございました。