筆跡鑑定セルフチェック12回目
筆跡鑑定の実務的な比較観察その8
「筆跡鑑定を自分でやってみよう!」という企画も今回で12回目になりますが,不定期連載とはいえ前回(4月11日)から半年が過ぎてしまいました。
お忘れになっている方も多いと思いますが,前回は筆跡を文字列として観察する方法についてレクチャーしましたが,現役の筆跡鑑定人でも固有名詞などの文字列を観察している人は少数ですから,素人の方でも筆跡を文字列として観察できるようになると,万一,筆跡鑑定に関わるトラブルに巻き込まれたときに,相手方鑑定人が文字列の鑑定を行っていない(文字列の鑑定ができない)鑑定人であれば,そういった切り口で反論できるかもしれません。
さて,今回は行間と文字数のお話です。
筆跡鑑定というと,一つの文字を拡大して観察するイメージが浮かぶ方が多いと思いますが,実際には前回ご紹介した文字列の観察のように,マクロ的視点での観察も不可欠です。
筆跡鑑定における行間の観察
筆跡鑑定では行間の観察を行い,異同の判断の一つとします。行間とは,複数の行からなる文書の一行ごとの間隔のことです。文章を書いていくうちに紙の端まで来た時に,横書きであれば下部へ,縦書きであれば左側へ執筆する場所を改行することにより複数の行ができるのですが,行間が狭いものは比較的硬い文書に向いており,行間が広いものはポエムや手紙文などで見かけることがあります。ブログなどでは硬めの内容なのに行間が広い人がいますが,スクロールがしんどいので読みづかれてしまうことがあります。
筆跡鑑定では,罫線の有無にかかわらず個人差が生じるため,そうした筆跡個性をとらえて,鑑定資料と対照資料の比較観察を行います。
筆跡鑑定における文字数の観察
筆跡鑑定では一行当たりの文字数をカウントして,異同の判断とします。一行当たりの文字数が多くなるということは文字どうしが接近することを意味し説明文などでは読みやすい文章になります。一方,一行当たりの文字数が少なければ文字どうしに距離が保たれますので説明文などには不向きですが,緩急抑揚をつけることができるので感情表現に用いたり伝えたいことを強調したりすることに向いていると言えるでしょう。
筆跡鑑定における一行当たりの文字数はプロの鑑定人でも見落とされがちな要素なので,「ご自分で筆跡鑑定をやってみよう!」という方はこの項目を取り入れると異同の判断に幅が生まれて,多角的な視点に基づく鑑定結果を出せるかも知れません。
筆跡鑑定人が見落としがちな部分を観察して補強材料に
これまでの連載では筆跡鑑定をご自分で行う際の要領をレクチャーしてきましたが,個々の筆跡を観察することができ,また,固有名詞等の文字列の観察を行い,それに加えて文書全体にまで目端が利くようになれば,セルフ筆跡鑑定も黒帯レベルです。あとは鑑定結果を出す際に忖度しないように気を付けることができれば一人前です。
筆跡鑑定には「観察しなくてよいところ」はありません。プロの筆跡鑑定人でも見落としがちなところや見落としている部分がないとは言い切れませんので,ご自分で筆跡鑑定を行う際にはあらゆる視点や方法,機材などの可能性を試してみると良いでしょう。徒労に終わることも多いかも知れませんが有効な観察材料が発見できれば,あなたの筆跡鑑定を経て得られる鑑定結果を補強する材料にもなりますので,あくなき挑戦を続けましょう。
筆跡鑑定セルフチェックの連載はひとまずここまでです。いづれまた再開するかもしれませんが,その時までお互いに鑑定技術の研鑽を続けましょう!
筆跡鑑定と印章鑑定の研究用試料作成:149回目
台風が関東をかすめていきました。
右回転の進路なので戻ってこないかと心配になります。
めっきり秋らしくなり,汗かきの私も快適に過ごせているので,仕事もはかどるようです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
次回のブログ更新まで,あなたと私に良い風が吹きますように。