遺言書の筆跡鑑定はどのタイミングで行うの?
経験則による遺言書の筆跡鑑定を行うタイミング
筆跡鑑定を御依頼いただくお客様の鑑定案件は何通りもありますが,今回は主に裁判に発展する可能性が高い遺言書について,弊所の経験則を踏まえてお知らせいたします。
遺言書の筆跡鑑定は法律相談の前に
まず,筆跡鑑定を行い遺言書が本当に被相続人(遺言者)の筆跡であるかを調べることは,法律相談の前に行っておく必要があります。
その理由として,弁護士の中には筆跡鑑定を否定的にとらえたり,筆跡鑑定のことをよく知らなかったりする人がいますが,そういった弁護士を代理人にして裁判を行い,筆跡鑑定書を裁判所に提出せずに敗訴した例をいくつも見ているからです。
筆跡鑑定を否定的にとらえる弁護士の多くは「裁判の証拠にならないから。」とか「筆跡鑑定書だけで遺言無効が決まるものではない。」といったような高尚なご意見をお持ちで,遺言無効の裁判において筆跡鑑定書がなくても勝訴できるなら仰る通りかと思います。ですが「筆跡鑑定書がなくても勝てると思った。」というのが敗訴した弁護士の言い訳ですので,後悔する前に弁護士の考えをよく聞いておくと良いでしょう。
また,「一審で筆跡鑑定書を提出しなかったので敗訴した。二審に向けて筆跡鑑定書を用意したい。」という御依頼が大体このパターンですが,筆跡鑑定を行い筆跡鑑定書を作成するには時間がかかりますので控訴理由として筆跡鑑定書を提出するには限られた時間内(2週間+50日以内)に筆跡鑑定が終了することが条件となります。ただし,鑑定所の多くは大抵先約がありますのですぐに筆跡鑑定に着手をできる状態ではなく,偶然空きのある鑑定所が見つかったとしても筆跡鑑定書を作成するための期間は一箇月程度を要しますので書類のやり取りなどを含めると極めてタイトなスケジュールになります。
加えて,筆跡鑑定をしてみたら「遺言書は被相続人の筆跡である。」という鑑定結果になることもあります。遺言無効の訴訟を起こしているのなら全く真逆の鑑定結果になりますので,筆跡鑑定書を作成することはできても主張したいことと正反対になりますから裁判所に提出することはできません。
上記は遺言書の筆跡鑑定についてご相談や御依頼をいただくお客様のうち数%の実話ですが,失敗しないためにはどのタイミングで筆跡鑑定を行うのが良いのかというと,遺言書を読んで筆跡に違和感を感じたときです。このタイミングで筆跡鑑定を依頼することの利点としては時間の余裕があり,事を荒立てなければ他の相続人との関係も普段通りですから被相続人の筆跡を手に入れやすいので,好適な状態で筆跡鑑定に臨んでいただけるからです。
なお,「好適な状態」とは遺言書の日付に近い時期の被相続人の筆跡を多く集められた状態であり,被相続人は遺言書が作成された当時に実際にどのような筆跡であったのかが分かりますので異同の判断がつきやすく,筆跡鑑定書にしたときの解説も説得力が増すものと考えられます。
筆跡鑑定の結果「遺言書は被相続人の筆跡ではない。」ということになった場合,法律相談の際に筆跡鑑定の結果を提示でき,弁護士の筆跡鑑定に対する考えを知ることができますから上記のような考えの弁護士であれば代理人にはせず他の弁護士を訪ねればよいわけですし,また,逆に「遺言書は被相続人の筆跡である。」という鑑定結果になったのなら,その遺言書は被相続人の遺志ですから尊重して受け入れ,他の相続人と争う必要もありませんので弁護士費用や訴訟費用など多額の出費をせずに済むことになります。
今回は遺言書について具体例を挙げてみましたが,遺言書に関する裁判で勝訴された弁護士さんからお聞きした言葉に「裁判は証拠や事実の積み重ねだから,筆跡鑑定書も重要な裁判資料の一つなんですよ。」というものがありました。筆跡鑑定に否定的な弁護士とは異なり,どのような資料でも勝訴に向かうベクトルが同じであれば丁寧に取り扱っていく姿勢が,卓越した能力を持つ弁護士たる所以なのかと思いました。
筆跡鑑定と印章鑑定の研究用試料の作成:238回目
こんにちは。
本日の横浜は晴天ですが,空にうっすらと幕がかかっているような不思議な空模様です。黄砂の影響かとも思いましたが本日はほとんど影響なしとのことなので春霞のようなものかもしれません。
今回のブログでは筆跡鑑定を依頼するタイミングの重要性について書かせていただきました。読み返してみると筆跡鑑定に否定的な弁護士の取り上げ方が少々攻撃的に取られるかもしれませんが,裁判に敗訴して損害を被るのは弁護士ではなくクライアントであるお客様なので,敢えて苦言を申し上げました。身近な方がお亡くなりになり遺言書が出てきて動揺している方の指針になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
次のブログ更新まで,あなたと私に良い風が吹きますように。