筆跡鑑定における赤外線透過研究
加筆改ざんの調査は赤外線観察から
筆跡鑑定の研究内容ページに少し書いていますが,弊所では,赤外線スキャナーや赤外線マイクロスコープを使用した検査を行っており,ボールペンインクとの相性についても,検証しています。
検証実験に使用したボールペン
- ぺんてる製0.5㎜ゲルインキボールペン黒
- ぺんてる製0.5㎜ゲルインキボールペン赤
- 三菱鉛筆製極細0.38㎜ゲルインクボールペンシグノRT黒
- 三菱鉛筆製極細0.38㎜ゲルインクボールペンシグノRT赤
- ゼブラ製0.5㎜ジェルボールペンサラサ黒
- ゼブラ製0.5㎜ジェルボールペンサラサ赤
- ゼブラ製油性ボールペン黒
- ゼブラ製油性ボールペン赤
- プラチナ萬年筆製ノック・ゲルボールペン黒
- プラチナ萬年筆製ノック・ゲルボールペン赤
- プラチナ萬年筆製極細0.4㎜ボールペン黒
- プラチナ萬年筆製極細0.4㎜ボールペン赤
ボールペンによる筆記
それぞれを開封し,ペン先についている樹脂玉を取り外して,B4サイズの普通紙に手書きで直線を引きます。
写真では見えづらいですが,どのペンも最初から,きれいにインクが出ています。
この12本の線を,赤外線マイクロスコープで観察し,メーカーや,油性・ゲルのインクの種類により,赤外線の透過に違いがあるかを検証します。
以下,上記紹介順で赤外線撮影の画像を掲載します。
ぺんてる製 0.5㎜ゲルインキボールペン 黒
縦に筆記した直線が写りません。赤外線を透過するタイプのゲルインキを使用しているようです。
ぺんてる製 0.5㎜ゲルインキボールペン 赤
黒と同様に,縦に筆記した直線が写りません。赤外線を透過するタイプのゲルインキを使用しているようです。
三菱鉛筆製 極細0.38㎜ゲルインクボールペン シグノRT黒
縦に筆記した直線が写りました。赤外線を透過しないタイプのゲルインクを使用しているようです。
三菱鉛筆製 極細0.38㎜ゲルインクボールペン シグノRT赤
黒とは異なり,縦に筆記した直線が写りません。極うすく見える縦の線は,筆圧による陰影と見られます。赤外線を透過するタイプのゲルインクを使用しているようです。
ゼブラ製 0.5㎜ジェルボールペン サラサ黒
縦に筆記した直線が写りました。赤外線を透過しないタイプのジェルインクを使用しているようです。
ゼブラ製 0.5㎜ジェルボールペン サラサ赤
黒とは異なり,縦に筆記した直線が写りません。赤外線を透過するタイプのジェルインクを使用しているようです。
ゼブラ製 油性ボールペン 黒
縦に筆記した直線がうっすらと写りますが,ほとんど見えません。赤外線を透過するタイプの油性インクを使用しているようです。
ゼブラ製 油性ボールペン 赤
黒とは異なり,縦に筆記した直線が,うっすらとすら写りません。極うすく見える縦の線は,筆圧による陰影と見られます。赤外線を透過するタイプの油性インクを使用しているようです。
プラチナ萬年筆製 ノック・ゲルボールペン黒
縦に筆記した直線が写りました。赤外線を透過しないタイプのゲルインクを使用しているようです。
プラチナ萬年筆製 ノック・ゲルボールペン赤
黒とは異なり,縦に筆記した直線が写りません。極うすく見える縦の線は,筆圧による陰影と見られます。赤外線を透過するタイプのゲルインクを使用しているようです。
プラチナ萬年筆製 極細0.4㎜ボールペン黒
縦に筆記した直線が写りません。極うすく見える縦の線は,筆圧による陰影と見られます。「ゲル」か「油性」かは表記していないので不明ですが,赤外線を透過するタイプのインクを使用しているようです。
プラチナ萬年筆製 極細0.4㎜ボールペン赤
黒と同様に,縦に筆記した直線が写りません。極うすく見える縦の線は,筆圧による陰影と見られます。「ゲル」か「油性」かは表記していないので不明ですが,赤外線を透過するタイプのインクを使用しているようです。
検証実験のまとめ
以上の実験の結果,ボールペンの赤外線透過状況は以下の通りとなりました。
- 赤色のボールペンは,インクの「ゲル」・「油性」を問わず透過する(各メーカー総崩れでした。意外な結果でした)。
- ゲルインクの黒色はメーカーにより,赤外線の透過の有無がある(三菱,ゼブラ,プラチナの3社は透過せず,ぺんてるは透過しました)。
- 同じメーカーでも,インクの「ゲル」・「油性」の違いで透過の有無がある(ゼブラでは,ゲルインクは透過せず,油性インクは透過しました)。
- 油性インクは,色に関係なく透過する(インクタイプが明記されていない,プラチナ萬年筆の極細0.4㎜を,仮に油性とした場合,ゼブラの油性インクと同じように,赤外線を透過すると考えることができます。これも想定外の結果でした)。
検証の結果は,想定外となりました。
もちろん,この実験で使用したボールペンが,市販されているすべてではありませんし,他のメーカーを含め,更にシリーズとその年代などでも変化すること予想されますので,極々一部の製品についての見解となりますが,少なくとも赤外線透過の可能性については,「メーカー」・「インクタイプ」・「色」の系統で仕分けることができないことが判明しました。実に興味深い実験結果となりました。