メタルチップペンYISHUの書き心地
筆跡鑑定人の心をくすぐる,インクが要らないペン
クラウドファンディングにて,「YISHU」という,ペン先が全て金属でできたペンを購入しました。
鉛筆より歴史が古く,当時のメタルチップペンは銀を使い,特殊な加工を施した紙に化学反応をさせて筆記できるようにしていて,レオナルドダビンチなども愛用していました。改良を重ね現代によみがえらせたのが,普通紙にも書けるようになった「YISHU」です。
こんなうたい文句を見たら,購入しないではいられません。私は筆記具コレクターではありませんが,筆跡鑑定人として探求心がくすぐられます。
外箱は真っ白。クラウドファンディングの画面では黒い箱だったのですがいきなり意表を突かれました。
早速開けてみると,中はこんな感じです。
メタルチップペン「YISHU」のみ。存在感が半端ないです。
中は2段になっていて,下の段に皮でできた専用ケースが入っていました。
長さはおおよそ15センチ程度。一般的なボールペンくらいの長さです。
早速筆記してみます。とりあえず「YISHU」と書きました。写真からお分かりになるか分かりませんが,鉛筆で書いた筆跡に近い質感があります。
そういう訳で,下段にはHBの鉛筆で同じ文字を書いてみました。肉眼では見分けがつきません。
左が「YISHU」で,右が鉛筆書きの筆跡です。20倍に拡大して撮影しました。紙の繊維に色味が付着する様子も鉛筆と大差ないですね。言われなければ気づかないでしょう。
こちらは200倍に拡大した画像です。「YISHU」は紙の繊維にキラキラと光るものがついていることがわかります。一方鉛筆では,黒味が紙の繊維に付着しており,若干光沢もありますがメタルチップペンほどではありません。ここまで拡大してはじめて違いが分かるようになりました。
今度は赤外線マイクロスコープで撮影してみることに。左が「YISHU」で右が鉛筆書き,先ほどと同じ20倍に拡大して撮影しました。「YISHU」は通常のマイクロスコープで撮影したときより黒味が減りキラキラとした部分が強調されたようです。鉛筆も若干黒味が減りましたが,メタルチップペンとは比較にならないほど黒く見えます。
こちらは赤外線マイクロスコープ200倍撮影の拡大図。この図でも分かりますが,メタルチップペンは赤外線マイクロスコープで観察すると鉛筆であるか否かを容易に判別することができるようです。
鉛筆との違いは消しゴムで消せないこと
実は,マイクロスコープを駆使しなくともメタルチップペンの筆跡は通常の消しゴムで消すことができないので,後先を考えずに見分けようと思えば消しゴムをかけるのが手っ取り早いのですが,万一鉛筆で筆記された筆跡だった場合,筆跡鑑定を行うことができなくなりますので,筆跡鑑定人としては,こうしたことの研究が必要になるのです。
今回は趣味と実益を兼ねた(?)記事とさせていただきました。近親者に送る来年の年賀状にはこのペンでコメントを書こうと思います。
最後になりますが,書き心地はよいと思います。ただし,ペン先が「金属である」と意識してしまうと紙が破れるのではないかという一抹の不安がよぎり,書き方がぎこちなくなる瞬間がありました。何事も慣れが大事ですし,インク切れの心配もないので日用のペンとして愛用したいと思います。
120回目の筆跡試料の作成
今年も残すところ10日余り。平成から令和に元号が変わり,その年も終わろうとしています。
今年は年男なので,前回(36歳)と同じように環境の変化があるかと思いましたが,自身においては今のところ平穏無事で,このまま災厄に見舞われないことを祈るばかりです。
筆跡鑑定研究所の実験材料として
弊所は筆跡鑑定研究所でもありますので,今回の筆跡試料の作成から,メタルチップペン「YISHU」による筆跡を加えることにいたしました。
化学変化により筆跡を残すペンに,経年変化があるのか?
大変興味深く,観察してゆくことが楽しみです。
最後までお読みいただき,ありがとうございました。
それでは皆様,よいお年をお迎えください。